(論文解説)

 物質を形造る原子の基本要素である陽子(核子)・電子は、宇宙が誕生して間もない時期に作られ長い間崩壊することなく安定に存在している。しかし、素粒子の標準理論に登場する3つの相互作用を統一する大統一理論によれば、陽子は稀に崩壊を起こし自身よりも質量の軽い粒子に変化することを予言している。このような陽子崩壊の観測に成功すれば、宇宙初期にあったとされる大統一のエネルギースケールを決定する手がかりとなり、宇宙進化の理論にも大きな影響を与える大発見となる。理論計算によれば陽子の寿命は少なくとも1030年以上であると予想されるため、大統一理論を検証するためには大型の検出器での長期観測が必要となる。今回、1キロトンの液体シンチレータ検出器を用いてニュートリノ観測を行っているカムランド実験において、8.97キロトン・年のデータ収集によってp → K+ + 反ν モードでの陽子崩壊探索を行った。液体シンチレータ検出器では、スーパーカミオカンデ実験などの水チェレンコフ光による探索では見ることのできなかったK+の信号をシンチレーション光によって見ることができるため、これまでよりも高い検出効率での観測が可能となる。K+の信号とそれに続くK+崩壊によって作られる信号との遅延同時計測法によって44%の検出効率を達成し、図に示すように有意な事象は見つからず陽子崩壊の寿命に対して下限値5.4 × 1032年(90%信頼度)を得た。この制限は、スーパーカミオカンデの260キロトン・年のデータ収集による探索結果で得られる下限値5.9 × 1033年と比較すると10倍程度感度が低い。しかし、検出効率はカムランド実験の方が2倍程度高いことから、将来計画されている数10キロトンの液体シンチレータ検出器では世界最高感度での陽子崩壊の探索が達成できることが分かった。

カムランドによるp → K+ + 反ν モードを用いた陽子崩壊の探索

フィジカル・レビュー・D 92巻 052006(2015年掲載)

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