(論文解説)

 地球反ニュートリノは、地球内部で起こる放射性崩壊によって絶えず放出されている。中でもウラン・トリウム・カリウムの放射性崩壊は、地球の主要な熱源であると考えられており、これらの元素存在度は地球の熱史に重大な影響を与える。地球反ニュートリノ測定は、地球科学によってモデル化された放射性元素の存在量と分布を独立に検証する唯一の方法である。 1,000トンの液体シンチレータを有する検出装置を用いたカムランド(KamLAND)実験では、2005年にウラン・トリウムから作られた地球反ニュートリノの初検出に成功し、最近イタリアのボレキシーノ(Borexino)実験においても検出が確認されたが、地球モデルを検証するにはどちらも不十分な精度であった。カムランド実験ではその後の計測でさらに統計量を拡大するとともに、検出器内部の純化作業によりノイズ事象を大幅に削減し、測定精度を向上することに成功した。カムランド実験の新しい結果は、地球モデルを制限する精度に達しつつある。図は、カムランド実験とボレキシーノ実験における地球反ニュートリノの観測量と地球モデル予測量を比較したものであり、どちらの結果も誤差の範囲内で良く一致していることが分かる。 カムランドのデータのみを使った解析の場合、全放射性物質からの寄与を考慮すると、約 21 TWの放射性物質起源の熱生成があると見積もられ、地球内部からの熱流(44.2 ± 1.0 TW)の半分程度に相当することが分かる。赤線は地球内部からの熱流と放射性物質起源の熱生成が同量であった場合(全放射化熱モデル)の予測量で、このモデルは地球ニュートリノ実験の観測結果から97.2%の信頼度で排除されることが示された。地表での熱流量から放射性物質起源の熱生成を差し引いた残りは地球形成時の熱であり、原始の熱が今も残存し、地球が徐々に冷えているということも自然に導出される。

ネイチャージオサイエンス 4巻 647(2011年掲載)

放射性物質起源の熱生成は地熱の一部に過ぎないことを地球反ニュートリノ観測で解明

  1. 箇条書き項目  論文要旨  |  HTML  |