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東北大学KamLANDENGLISH


東北大学ニュートリノ科学研究センター



宇宙の大規模構造〜天文グループ〜
天文グループの林野先生に聞きました。
天文グループはどんな研究をしているのですか??
Dr.F.Suekane
准教授:林野友紀

§ はじめに -- 宇宙研究寸描

宇宙は、鑑賞においても研究においても美しく感動に満ちている。そのように言えるのではないでしょうか。街の灯りの届かない山あいに出掛け夜空を見上げると、満天の星に圧倒されます。大自然は偉大な芸術家である、という言葉が相応しいと実感する瞬間です。その星々は天の川銀河の星、かなり"近く"の天体たちです。 そのような天体の研究から、星の内部で起きる原子核反応(核融合)によって、炭素・酸素・窒素など宇宙初期には存在しなかった様々な元素が作られ、超新星爆発の際にばらまかれて生命の材料となったことが明らかになっています。まさに星は人類の母と言えるでしょう。その星たちの"宇宙"、天の川銀河を出ると、今度は望遠鏡が必要になりますが、実にさまざまな形をした銀河を見ることができます。ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された美しい銀河の写真集を御覧になった方もいらっしゃるでしょう。うずまき型をした華麗な銀河、衝突によって車輪のように変形した銀河など、多彩な容姿に魅入ります。そのような銀河がいかなるメカニズムで形成されたか、盛んに研究が行なわれてきました。そこで明らかになったことは驚くべきことに、どの銀河にも見えている星の総量の数倍もの見えない物質=ダークマターが秘かに存在して、銀河を力学的に支配していることです。ダークマターという見えないキャンバスの上に銀河が描かれている訳です。

更に遠く、数億光年遠方に行くと、直径十万光年前後もある銀河も点にしか見えなくなってしまいます。そうすると、宇宙の研究は味気ないものになってしまうのでしょうか。そんなことはありません。銀河が集まって巨大な構造を作っているからです。20億光年先くらいまでの宇宙の銀河地図を作る研究が、1990年頃から大きく進みました。その結果、銀河たちは長さ数億光年に亘って帯あるいはフィラメントのように群がり、帯からはずれると殆んど銀河のない空洞空間(ボイド)がやはり数億光年拡がって次の帯につながっていく、そんな網の目構造・泡構造が判ってきたのです。これを宇宙の大規模構造と呼んでいます(図1)。この宇宙地図を美しいと思うかどうかは別として、巨大なスケールでの銀河分布=物質分布の非一様さに目を見張ります。ここで人類の認識力の凄さは、コンピューターシミュレーションを駆使した最新の宇宙進化理論が、この巨大な宇宙構造を概ね再現してしまうことです。即ち、ダークマターを含めて全ての物質がほぼ一様に分布していた宇宙初期から出発し、その時期に存在し得た極く僅かの物質密度の揺らぎ(密度ムラ)が重力によって増幅される様子を計算し、現在の宇宙について図1と似た銀河分布を計算機の中でほぼ実現させているのです。


図1. 2DF銀河サーベイによる近傍宇宙の銀河マップ(約20億光年まで)。ひとつの点が銀河1個を表わす。20億光年以遠で銀河数が減っているのは、遠い銀河は見掛けの光度が暗いので検出効率が低くなるため。銀河数自体が少なくなっているのではない。

それでは宇宙はすべて理解し尽くせたと言えるでしょうか? 言いかえれば、そのコンピューターシミュレーション(ミレニアムシミュレーションと呼ばれています)は宇宙進化のメカニズムを完璧に捉え切った、完全無欠なものでしょうか?

これに対する答えはなかなか微妙で、研究者によって意見が分れるかも知れません。でも次のことは共通認識と言えるでしょう。即ち、ダークマターの初期揺らぎが重力によって増幅・成長する過程は、重力の法則・空間膨張の理論(一般相対論)によって、正確に追跡することが可能である。それは完全無欠と言って良い。一方、十分成長したダークマター揺らぎ(ダークマターハローという)の中で、どのようにして銀河が誕生するかは、まだ完全に解明されたとは言い切れない。大体このような表現が妥当な所ではないかと思われます。銀河の形成には、電磁流体力学の現象など複雑で多義に亘るメカニズムが介在するので、一筋縄ではいかないという訳です。ということは、ミレニアムシミュレーションには経験的に決めたパラメータなども少なからず入り込んでいることになります。銀河形成に関わるそのようなパラメータを旨く調節して、図1のような現在の宇宙の大規模構造を再現したのがミレニアムシミュレーションだということになります。そうだとすると、140億年に亘る進化の途中の宇宙構造を再現できるか、ということが、そのシミュレーションを検証するひとつの鍵になります。140億歳の宇宙の大規模構造を実現するために、もしも無理なパラメータを使っているなら、例えば20億歳の宇宙の再現に失敗するかも知れない、という訳です。

§ 私たちの研究 I -- サーベイ2002

そのような問題意識のもと、私たちのグループでは視野の広さを誇るすばる望遠鏡主焦点カメラを用いて、深宇宙=高赤方偏移の大規模構造探査を始めました。観測天域はペガサス座近くのSSA22と呼ばれる領域で、1998年、カリフォルニア工科大学のスタイデル(C.C.Steidel)等がパロマ山の口径5m望遠鏡を使った銀河サーベイによって、赤方偏移z=3.1(宇宙年齢20億歳)にライマンα輝線銀河の密集領域を発見した天域です。ただし彼等の調べた領域は9分角×9分角、z=3.1で0.5億光年四方とそれほど広くなく、銀河団より少し大きい程度、すばるの視野の12分の1でした。そのため輝線銀河は視野の中で一様に分布、この密集領域の本来の大きさや形状などは突き止められていませんでした。そこで私たちはすばる望遠鏡主焦点カメラの広い視野(34分角×27分角)を活かし、彼等の領域が銀河団程度なのか、もっと大きな構造の一部なのか、その真の姿を見ようとしたのです。

探索方法は、中心波長4977Å、バンド幅77Åの狭帯域フィルター(NB497)と通常の広帯域フィルターを組み合わせ、z=3.1だけ赤方偏移した、即ち波長が4.1倍伸びた銀河のライマンα輝線を狭帯域フィルターで検出する方式です。このフィルターでは、120億光年彼方の宇宙空間を視線方向に2億光年の厚みでスライスし、その中に在る銀河を天球面上に投影して二次元分布を調べることになります。幸い2002年9月の観測は晴天に恵まれ、NB497バンドだけでも7時間半のデータを撮ることが出来ました。この画像で検出できる等級の限界は26.2等(シグナル・ノイズ比=5の場合)というかつてない深さで、狭帯域フィルターによる観測として現在も世界最高の深い画像となっています。こうして検出した銀河は一辺約2億光年の図2において、左(東)から右上(北西)にかけてグレイトウォールのようなベルト状構造を見せています。即ち、スタイデル等が発見した銀河密集領域(オレンジ色の点線で囲んだ四角)は、この"グレイトウォール"の一部だったことになります。緑の破線は視野全体の平均銀河密度を表す等高線です。その外側は銀河が格段に少なく"ボイド"のようです。100億年以上も昔の大規模構造をこれほど克明に捉えたのは世界で始めてのことでした。ベルトは視野中央から左上(北東)にも枝分れするように伸び、まるで図1に見る現在の宇宙の巨大泡構造を一部切り取ってきたかのようです。これを見る限り、僅か20億歳の若い宇宙にも現在とそれほど変わらぬ大構造が既に建造を終えていたように思えます。

survey2002の結果は、すばるホームページ(2006年7月26日付)で紹介されています。


図2.サーベイ2002による宇宙年齢20億歳の銀河マップ。横1辺は約2億光年。オレンジ点線の四角い領域がスタイデルの1998年観測領域。黒点:ライマンα輝線銀河、赤点:ライマンα吸収銀河、水色の小四角:ライマンα輝線で拡がった天体(ブロッブ)で、巨大銀河の幼少時代の姿だという説がある。

§ 私たちの研究 II -- サーベイ2005

この結果に勢いを得て2005年、私たちのグループでは更なる拡大探査を行ないました(観測代表者=山田亨東北大学教授)。その結果、6億光年×3億光年に亘る広大な銀河地図が、図3のように明らかになりました。真中下側の赤で囲んだ四角い領域が一辺0.5億光年のスタイデル等の観測領域、その周囲2億光年四方が図2のサーベイ2002領域です。1998年スタイデル等が発見した銀河高密度領域は、サーベイ2002領域をも越えて左方(東)へも大きく連なっているようです。更に右方(西)視野端には2億光年スケールの新たな高密度領域も現われました。その上側(北)には直径2億光年もあろうかという巨大ボイドも見られます。このような若い宇宙にも、数億光年という巨大なスケールの高密度領域やボイドが高いコントラストで連なっていたのです。


図3.サーベイ2002の周囲を拡大探査したサーベイ2005銀河マップ。横×縦は6億光年×3億光年。

サーベイ2005では、SSA22からずっと離れた言わば一般領域も探査しました。それと比較すると、巨大ボイドを抱えているにも関わらずSSA22領域は全体として銀河数が異様に多いことが判明したのです。数値で表わすと、図3に分布する銀河の数密度は一般領域の2倍にも達します。物質揺らぎの小さい深宇宙では、6億光年×3億光年×2億光年(視線方向の厚み)というような巨大な領域の数密度はほとんど揺らぎません。ミレニアムシミュレーションで調べても、せいぜい平均密度に対して15%くらい高かったり(平均の1.15倍)低かったり(0.85倍)という程度です。典型的な数密度揺らぎが15%である時、たまたま2倍もの数密度になる確率は、百万分の1にも届きません。つまり、地平線内の宇宙(観測可能な宇宙)の全てを探査し尽しても、このように大きな揺らぎの領域には出会うことが出来ない、という訳です。こうしてSSA22は、標準的な宇宙進化モデルでは決して実現できない領域だということになります。

一方で、"標準的な宇宙進化モデル"は、基本的な部分はまず間違っていない、という強い証拠が幾つか挙げられています。例えば宇宙背景輻射の温度揺らぎのパターンがその好例です。すると、銀河がどのようにして作られるのか、銀河形成のシナリオに不十分なところがあると考えるのが自然かも知れません。"はじめに"で述べたように、"140億歳の現在の宇宙大規模構造を実現するために、ミレニアムシミュレーションは無理なパラメータを使って"しまっているのかも知れません。あるいは若い宇宙に初めて星が誕生した際、その超新星爆発によって周囲が電離され、その後の天体形成が抑制されたり促進されたりしているのかも知れません。超新星爆発の中でも、特に大出力の爆発ではガンマ線バーストと呼ばれる相対論的ジェットの発生もあり得ると考えられています。その強力なガンマ線ビームは相当遠方まで届いて空間の電離状態を掻き乱し、大規模構造のスケールで天体形成の進み具合をコントロールしたのかも知れません。ちなみにこれらのプロセスは、ミレニアムシミュレーションには全く取り入れられていません。

いずれにせよ、ミレニアムシミュレーションに代表される標準的宇宙進化モデルは、全て完全無欠、という具合にはいかないように思えます。やはり宇宙には、我々が未だ捉え切れていない謎が潜んでいるようです。

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