(論文解説)

 地球内部のウランやトリウムなどの放射性物質の崩壊によって生成される反ニュートリノ(地球反ニュートリノ)の検出は、地球物理にとって極めて重要な情報を与える。ウランやトリウムの崩壊に伴って発生する放射化熱は、地球内部の動力学の理解、地球形成・進化の理解において最も基本的な要素である。地球組成モデルによる予測では、放射性元素の崩壊による発熱率は16 TWであり、地球からの熱消散率の合計のおよそ半分の寄与を持つことを示唆している。1,000トンの液体シンチレータを有するカムランド検出器は、地球反ニュートリノを検出できる感度を持つ。図の黒丸はカムランドで検出された152個の事象のエネルギー分布であり、反ニュートリノ以外のバックグラウンド事象を考慮した地球モデルの予測(細い黒線)と良く一致していることが分かる。トリウム/ウランの重量存在比を3.9と仮定すると、検出された地球反ニュートリノの数は90%の信頼度で4.5から54.2の範囲となる。この結果は、地球物理学的モデルによる予測値19(中心値)と矛盾しない。我々の現在のデータは、統計的に限られてはいるものの、現状では定量的にほとんど絞り込まれていない、地球内部のウランとトリウムの放射化熱に対する直接の上限値(60 TW)を与える。

カムランドによる地質学的に生成した反ニュートリノの実験的研究

ネイチャー 436巻 499(2005年掲載)

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