(論文解説)

 宇宙線ミューオンによって生成される不安定核は、ニュートリノ観測、二重ベータ崩壊実験、ダークマター探索などの希少事象の観測におけるバックグラウンド源となり得る。カムランド検出器は、1,000トンもの大容量の液体シンチレータを有しているため、これらのバックグラウンドを理解する上で有用なデータを与える。これまでの宇宙線ミューオン起源の液体シンチレータ中でのバックグラウンドの見積りは、CERNでのスーパー陽子シンクロトロンミューオンビーム実験(100GeV, 190GeV)の結果を基にして生成断面積を評価し、検出器の設置された地下におけるミューオンエネルギーとの違いを考慮した外挿データによって推定するしかなかった。そこで、バックグラウンドの予測の精度をより高めるため、素粒子反応シミュレーションツール(MUSIC, FLUKA, GEANT4)やミューオンビーム実験に基づいた見積値とカムランド実験の観測値の整合性を検証した。その結果、 カムランド検出器の液体シンチレータ中での中性子生成率は Yn = (2.8 ± 0.3) × 10-4 μ-1 g-1 cm2と測定され、図に示すようにGEANT4や FLUKAによるシミュレーションの予測よりも高いことが分かった。また、いくつかの不安定核の生成率においてミューオンビーム実験に基づく予測と約2倍程度もの食い違いが見つかったが、どの不安定核でもオーダーでは一致することが確認された。

カムランドにおける宇宙線ミューオンによる不安定核の生成

フィジカル・レビュー・C 81巻 025807(2010年掲載)

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