(論文解説)

 近年のニュートリノ振動の観測によって、ニュートリノが非常に小さな質量を持ち3世代間で混合することが実証されたが、未だに質量の絶対値は決定されていない。ニュートリノの極端に小さい質量は、右巻きの重いニュートリノを予言するシーソー模型による説明が有力であり、この右巻きニュートリノの崩壊が物質優勢の宇宙の起源であるとするレプトジェネシス理論が注目を集めている。これらの理論は、ニュートリノが粒子と反粒子の区別がないマヨラナ粒子であることを前提としている。ニュートリノの放出を伴わない(0ν)2重ベータ崩壊は、ニュートリノのマヨラナ性を証明する唯一の手段であり、その崩壊率からニュートリノの質量も決定できるため、0ν2重ベータ崩壊の探索は非常に重要視されている。一方、ニュートリノを伴う2ν2重ベータ崩壊は、標準理論で予測される反応である。カムランド禅実験では、透明な風船(ナイロン製25ミクロン厚)の内部に300kgのキセノン同位体(136Xe)を溶かし込んだ液体シンチレータを導入して78日のキセノン崩壊測定を行った。その結果、図のようなエネルギースペクトルが得られ、2ν2重ベータ崩壊の半減期は 2.38 ± 0.02(stat) ± 0.14(syst) × 1021 年(stat,systは統計誤差と系統誤差を表す)、0ν2重ベータ崩壊の半減期は90%の信頼度で 5.7 × 1024 年以上と見積もられた。これは、ニュートリノ質量に対して0.3〜0.6 電子ボルト程度の上限値が得られたことに相当する。今後さらに0.06 電子ボルト程度まで0ν2重ベータ崩壊の探索領域を延ばし、世界最高感度でのニュートリノ質量の検証を行う。

フィジカル・レビュー・C 85巻 045504(2012年掲載)

カムランド禅実験における136Xeの2重ベータ崩壊の半減期の測定

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