(論文解説)

ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の観測は、ニュートリノのマヨラナ性を証明する最も有力な実験的手法であり、もし発見されれば宇宙物理の大問題の1つである「宇宙物質優勢の謎」を解き明かす鍵となる。そのため、発見の一番乗りを目指して世界中で様々なタイプの検出器を用いた実験が計画され、激しい競争となっている。ニュートリノ検出器として極低放射線環境を実現しているカムランドでは、液体シンチレータ中にキセノンガスを溶かし込むことで高感度な二重ベータ崩壊実験「カムランド禅」を実現している。今回カムランド禅では液体シンチレータとキセノンの純化によって放射性不純物からのバックグラウンドを10分の1以下に低減し、二重ベータ崩壊観測の実験感度を向上させた。前データに純化後の約1年半のデータを加えた解析を行い、136Xeにおけるニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊観測の半減期として90%の信頼度で1.07 × 1026年以上という制限(前結果を約6倍更新)が得られた。これはニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の理論モデルを仮定すると、図に示すように電子型ニュートリノの有効質量に対して厳しい上限を与えたことに相当し、3種類のニュートリノが持つ質量の大きさが同スケールの準縮退構造を世界最高感度で検証したことになる。もし仮に、現在進行中の他の手法を用いたニュートリノ質量測定において矛盾する結果が得られた場合には、マヨラナニュートリノの存在は否定され大統一理論に修正を迫る重大な成果となる。今回の結果によってカムランド禅は競合実験を大きくリードしたことになり、将来実験に向けた装置開発はさらに激しい競争になると予想される。


フィジカル・レビュー・レターズ 117巻 082503

(2016年掲載, 注目論文としてFeatured in Physics及びEditor’s suggestionに選定)

カムランド禅による逆質量階層付近のマヨラナニュートリノの探索

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