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これらの話はフィクションです. |
トラックは木材を積んでいた.止まっていたのは材木屋の前で, ちょうど大きな板をおろしているところだった. 一人が板を抱え,歩道を歩いている.板を持つ人とガードレールの間は 80cmといったところか.すり抜けられる幅ではあるが, それでは板を持っている人を驚かせてしまう.一応,控えめにベルをならし, 通るよと予告をした.つもりだった.
予測が甘かったと言ってしまえばそれまでであるが, なんとその人は板を抱えたまま大きく振り向いたのである. 板は歩道を塞いだ.そうされてはぶつかるしかないだろう. ガードレール側にぶつかっては,板を持っている人を巻き込んでしまう. 痛そうだけれど,仕方ない.反対側だ.
他の人からはどう見えたのだろう.急に進路を変え,材木屋の, 木材が積んであるところに突っ込んだ.この痛さは半端でない. 通常,事故というのは道路にたたきつけられるものと,昔から相場が決まっている. 木材は,路面ほど平坦でない.しかも,崩れ落ちてくる.
人が集まってきている.早く起きなければ救急車を呼ばれてしまう. 事故の時くらいゆっくりさせて欲しいが,そうもいかない. 早く笑顔で立ち上がらなければ...
痛い..起きるぞ....おきるぞ..おきる...
起きた.相手は? 「大丈夫ですか ?」「ええ,私は.」
あれだけ譲歩したんだ.大丈夫に決まっている.
目が霞んできた.ここはまずい.早いところ立ち去ろう.
「私も全然大丈夫ですから.じゃあ,急いでますので,これで.」
近くに公園があった.そこのベンチがいいだろう.頭が痛い...
もうほとんど目が見えない.立っているのは限界だ.
意識が途切れ途切れになってきた.
1時15分か...
蟻に起こされた.寝耳に蟻である.まあ,これはいいや.
1時50分.30分で起きれたなら,まあまあと言ったところか.
熱も出てきたし,病院で検査を受けとくレベルかな?
理由はこうだ.自転車で走っていると,前から小学生の5〜6人の集団が 話をしながら歩いて来る.話に夢中になっているせいか,こっちには 全然気づかない.自分たちが歩道を完全に塞いでいることも全然認識 していない.しかしまだ距離がある.これだけ見通しがいい場所だから, そのうち気づくだろう,と思っていた.
まだ話に夢中になっている.そろそろ距離は 30m を切った. いい加減気づかないと危ない.
20m, 15m, ... まだ気づかない.いよいよ衝突の危険が現実になってくる. ちゃんと前を見て歩け,と心の中で叫ぶ.
10m を切った.5m,3m,もう避けきれない.不運なことに,車道には車が来ている...
集団の中の一人が言った.「今の見た? あの人,自分から壁に突っ込んでいったよ. しかも凄い勢いで.」
ひどすぎる適性検査の結果を少しは反省し,自転車の運転にも
危険予測というものを取り入れることにした.
「側溝のふたが空いているかもしれない」 (陽子崩壊くらいの確率かな)
「横の車が巻き込みを確認しないかもしれない」 (これなら10:0だな)
「曲がったところに物が置いてあるかもしれない」 (そのとき考えよう)
「歩行者の死角から自転車が飛ばしてくるかもしれない」 (まあいいや)
予測があたった.相手は40km/h位で走っている.こっちも40km/h位だから 相対速度80km/h,横に歩行者がいるから,横には逃げられない.正面か... 痛いんだよな,あれ...と考えているうちに正面衝突した.
なんだ,予測能力はあるじゃないか.やっぱり適性検査は間違っていたんだ.
しかし,それにしても,やはり正面衝突は痛い...
などとひたっている場合ではなかった.
ふと,自分が車道に落ちていることに気づいた.早く逃げなくては危険だ.
ひかれることはないにしても,急ブレーキを踏んで今夜の話のネタに
されるにきまっている.それだけは避けたい...