地球反ニュートリノの研究

地熱の測定により、地球内部で発生している熱量は44TW (テラワット=1兆ワット)と見積もられています。これは大型の原子炉1万5000基に匹敵する巨大な熱エネルギーです。このうち地球生成時の隕石の集積に起因する熱などのほかに、地球内部に含まれている放射性元素(ウラン 、トリウム 、力リウム )の崩壊で開放されるエネルギーが約20TWと考えられています。この熱はマントル対流などの地球の動力学や、地球の生成 ・ 進化の研究における最も基本的な物理量です。しかし地球深部を直接見ることは不可能であり、これら放射性元素の量と分布が直接観測されたことはありませんでした。

力ムランドでは地球内部のウランとトリウム系列の娘核がベータ崩壊して生成される反電子ニュートリノの一部を観測することができます。 エネルギーが低い事象の解析によりカムランドは、世界で初めてこの放射性物質起源の地球反ニュートリノを検出する事に成功し、検出された反ニュートリノから計算される地球ニュートリノの発生量は、地球物理によって予想される値と一致することがわかりました。この結果は、ニュートリノという地球内部を見通す新しい目が得られ、ニュートリノ地球物理学という新たな研究分野が切り開かれた事を意味します。

今後さらに事象数を蓄積して精度を高め、地球深部の化学組成や熱収支をより詳しく理解していくことができると考えられています。また、世界各地にカムランドと同様の検出器を設置する事により、ニュートリノを用いた地球の『断層写真』を撮ることが出来ると期待され、ニュートリノを用いた応用研究として活発に議論されています。


カムランド検出器でとらえた反ニュートリノのエネルギー分布
上図はカムランドでの全観測データからノイズ事象を差し引いた、地球ニュートリノ事象のエネルギースペクトル。青の領域は期待される地球ニュートリノの予測スペクトル。下図はカムランドでの1491日間の全観測データ。白の領域は原子炉ニュートリノ、赤と緑は反ニュートリノ以外の邪魔物反応による事象、そして青色領域は地球ニュートリノの予測される信号の分布を表しています(データに対する最適値)。


カムランドでの観到に相当する地球ニュートリノの生成点分布
地球表面の地殻部分にもっとも高い濃度でウランやトリウムが分布していて、核の部分にはウランやトリウムは存在していないと考えられています。


カムランドで観刻される地球ニュートリノの、カムランドからの距離分布
カムランド検出器近くで発生する地球ニュートリノは、地質図をもとに予測することができます。全体の50%の地球ニュートリノは500km以上の距離から飛来すると考えられています。