カムランドにおける原子炉停止期間を含む反ニュートリノ解析

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フィジカル・レビュー・D 88, 033001

 

(論文解説)

 カムランドでは幅広いエネルギー領域にわたって様々な発生源の反ニュートリノ信号を観測対象としている。2002年の建設以降、原子炉での核分裂反応時に発生する原子炉反ニュートリノ信号を用いてニュートリノ振動パラメターの超精密測定を行って来た。2011年3月に起きた東日本大震災以降、殆どの日本の原子力発電所は稼働停止を余儀なくされ、カムランドでの大幅な原子炉反ニュートリノ信号の減少をもたらすと同時に原子炉反ニュートリノ観測に於けるバックグラウンドを理解する為の重要なデータとなった。更に3.4MeV以下の低エネルギー領域に信号を持つ地球反ニュートリノ観測に於いては、最大のバックグラウンドである原子炉反ニュートリノの大幅な減少によりこれまでに無い高感度測定を可能にした。2005年のウラン・トリウム起源地球反ニュートリノの世界初観測(日本語解説)、2011年の地球の放射性物質起源の熱生成の直接測定(日本語解説)に加え、更なる地球の理解に対し新たな観測結果を示す事が期待されている。

 本論文では約1年間の原子炉停止期間を含む2991日の観測データを用い、反ニュートリノ信号の解析結果を示した。図1は全解析期間のカムランドでの反ニュートリノの観測レートの時間変化(左図)、予測・実測反ニュートリノレートの比較(右図)である。地球反ニュートリノの信号領域である低エネルギー領域(a)、原子炉反ニュートリノが主な信号である高エネルギー領域(b)のどちらも、予測と実測レートが良く一致していることが確認され、更に近年の原子炉停止期間のデータにより右図での低レート側の3点が加えられ、より強くその一致を示すことに成功した。また図2では、液体シンチレータの純化作業によるバックグラウンドの低減((c) Period 2)、原子炉停止による原子炉反ニュートリノの大幅な減少((d) Period 3)といった各期間に特徴的なエネルギースペクトルの変化を示し、特に(d)では地球反ニュートリノの明らかな寄与が確認できる。これらのデータにより、原子炉反ニュートリノを用いてニュートリノ振動パラメターの測定精度を向上させることに成功した。また地球反ニュートリノ解析では、地表での熱流47±2 TWに対する、放射性物質による寄与14.2+7.9-5.1 TWを2011年の結果より更に高い精度で測定し、原始の熱の残存の証明をより強固なものにした。更にカムランドでの地球ニュートリノフラックスの測定結果と様々な地球モデルからの予測値を比較することで、マントルの一層対流を指示するGeodynamical Earth Modelを89%の信頼度で排除した。現在のところ他のモデルとも約2σの信頼度で一致しているが、今後も高感度測定データを継続して取得できることが予測され、地球ニュートリノの測定によって地球モデルへの新たな知見を与えることが期待されている。

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