原子炉反ニュートリノを用いたニュートリノ振動の研究(1)

1970年頃に R.デービス博士によって太陽ニュートリノが初めて観測されましたが、そのニュートリノの数は理論予想よりもはるかに少ないという不思議な観測結果でした。それから30年、 さまざまな実験が行われ、また太陽理論の修正や改善がなされましたが、その差は埋まることはなく観測数は理論の予測に比べて少ないままでした。これを太陽ニュートリノ問題といいます。その後、太陽理論の予測が正しく、そして観測された量も正しいのであれば、ニュートリノが「 変身 」したからではないかという考え方が提唱されました。素粒子の標準理論で0とされているニュートリノ質量がもし0では無い場合、ニュートリノが飛行している間に別種のニュートリノに変身し、 また元のニュートリノに戻ってくるニュートリノ振動という現象が起きるために、見かけ上数が減ったように見えているのだというのがこの考え方です。

カムランド実験では、このことを原子炉反ニュートリノを用いるこで確認しようとしました。原子炉反ニュートリノは純粋に反電子ニュートリノとして発生し、人工のニュートリノであるため、太陽ニュートリノとは違い発生する量やエネルギー分布が正確に分かつています。また、カムランドが設置されている神岡鉱山は、周辺約130km~220kmに多数の原子炉群が存在し、約180kmの距離に巨大な原子炉が1基あるのとほぼ同等の特徴的な場所です。この原子炉群では世界全体の原子力発電所の熱出力の約7%が作られ、そこから大量の反電子ニュートリノが飛来します。もしニュートリノ振動が事実なら、長距離を飛行する反電子ニュートリノが別の反ニュートリノに度身し、観測数が減少するだけでなく、観測されるエネルギースペクタルにも特有のパターンが現れると考えられました。

カムランドはこの原子炉ニュートリノの観測を目指して建設され、2002年1月22日に観測を開始し、2003年に最初の145日の観測データを公表しました。観測された原子炉反ニュートリノ事象は54個、一方でニュートリノ振動無しとして予測される数は87個で観測数は明らかに少なく、カムランドは世界で初めて原子炉ニュートリノ消失の証拠を示しました。これはまた、太陽ニュートリノ問題を解決した事を意味し、世界の注目を集めました。

日本の原子力発電所の位置とカムランド
世界最大の原子力発電所である柏崎刈羽発電所や、
日本有数の原子力発電所密集地帯である若狭湾
などがカムランドから180km近辺に密集している。
各原子炉の運転データは各電力会社の協力により
東北大学に提供されている。


ニュートリノの予測数に対する観測数の割合。
横軸は原子炉からの距離、縦軸は、
ニュートリノの予測数に対する観測数の割合を表し、
点線は、ニュートリノ振動で予測される割合を表す。
各点は世界各地で行われた原子炉ニュートリノ実感による観測結果。