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カムランド高性能化計画が『大規模学術フロンティア促進事業』に採択されました

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  カムランドは、東北大学ニュートリノ科学研究センターがホストし国際共同で実施している、液体シンチレータを使ったニュートリノ観測実験です。岐阜県飛騨市の神岡鉱山地下で2002年に観測を開始し、原子炉ニュートリノ振動の発見やニュートリノ地球科学の開拓などで成果を上げてきました。2011年からはカムランドの極低放射能環境を活用し、新たに素粒子・原子核研究の最重要課題のひとつであるニュートリノのマヨラナ性(ニュートリノ・反ニュートリノの同一性)の研究も開始しました。世界をリードする「ニュートリノレス二重ベータ崩壊の探索」を推進してきたものの、装置の老朽化により探索で重要なエネルギー測定性能の維持が困難になり、2024年には観測を停止しました。
  神岡地下を中核に形成した極低放射能宇宙素粒子研究コミュニティとそこで開拓した極稀現象フロンティアでの旗艦プロジェクトとして活動を再開すべく、光収集量を5倍にする高性能化を掲げて、準備を進めておりました。この度の『大規模学術フロンティア促進事業』への採択を受け、カムランド高性能化計画(極低放射能環境でのニュートリノ研究)をより強力に推進していきます。


【カムランド】:東北大学ニュートリノ科学研究センターがホストし、神岡鉱山の地下1,000mで2002年に運転を開始した液体シンチレータ反ニュートリノ観測装置である。世界最大量1,000トンの液体シンチレータを蓄え、素粒子の反応で生じる微弱な光をタンク内面に配置した光センサーで検出する。液体シンチレータの発光量は純水の100倍程度あり、通常物質と比べ1兆分の1しか放射性不純物を含まない極低放射能環境も実現していることから、低エネルギー領域での稀な現象の観測に優れ、素粒子・原子核・天文・地球科学と幅広い分野に貢献する。
   2011年にカムランド中心に二重ベータ崩壊核であるキセノン136Xeを同位体濃縮し溶かした液体シンチレータを内包したミニバルーンを設置し、ニュートリノレス二重ベータ崩壊の探索を開始した。この実験をカムランド禅ということがある。

【ニュートリノ・反ニュートリノの同一性】:ニュートリノと反物質を構成する素粒子はその電荷などによって粒子と反粒子が区別される。ニュートリノは電荷が0であるため、粒子と反粒子の区別がなくても良いという理論が1937年にマヨラナによって提唱された。そのため、「ニュートリノのマヨラナ性」とも称される。ニュートリノが反応した際に電荷を持った素粒子に転換できるが、それが粒子であるか反粒子であるかはニュートリノの進行方向と回転方向の関係(カイラリティ)によって決まるものである。
   この理論では対で生成されるニュートリノ・反ニュートリノは実は同じ素粒子であることから、ニュートリノのマヨラナ性は宇宙の物質起源解明の鍵になると考えられている。ニュートリノのマヨラナ性の検証は1939年のニュートリノレス二重ベータ崩壊の理論予想以来精力的に実施されているものの未発見である。

【二ュートリノレス二重ベータ崩壊(0ν2β)】:原子核中の中性子が陽子に変わり、電子と反ニュートリノを放出する崩壊をベータ崩壊という。二重ベータ崩壊は、同一の原子核内で2つのベータ崩壊が同時に起こる現象で、1フェムトメートルの小さな空間に2つの反ニュートリノが作られる。そのため、反ニュートリノ同士がぶつかりやすく、ニュートリノと反ニュートリノが同一粒子である場合には、反ニュートリノ同士がぶつかって消滅する可能性がある。この現象をニュートリノレス二重ベータ崩壊という。
   消滅しなかった場合は2つの反ニュートリノが放出されるため2ν2βと表記される。放出された2つの電子のエネルギーを測ることができるため、ニュートリノがエネルギーを持ち逃げしない0ν2βは高いエネルギーに、ニュートリノが逃げてしまう2ν2βは低いエネルギーに観測される。そのため、これらの識別には高いエネルギー分解能(カムランドの場合は光収集量)が要求される。
   2ν2βは、近年高統計で測定されるようになったが、0ν2βは1939年の理論予測以来未だ発見されていない。

【極稀現象】:自然に発生しているが環境放射線のため観測が困難な、標準理論を超えた物理に起因する極稀な現象で、半減期1027年にも及ぶニュートリノレス二重ベータ崩壊が典型的な現象であり、暗黒物質の直接測定なども含まれる。
   極低放射能技術を駆使してバックグラウンドを低減することが不可欠で、大量のデータ収集や長期間の観測、高感度な検出器や特殊な実験設計を必要とするが、基礎物理学の理論検証や自然界の基本法則の理解、新しい物理現象の発見などの点で科学的に重要な意義を持つため、素粒子研究の新しい手法として極稀現象フロンティアを形成している。

【カムランド高性能化計画】:
学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想−ロードマップ2023
文部科学省 研究環境基盤部会 学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会による事前評価
日本学術会議 未来の学術振興構想(2023年度版)No.178
宇宙線研究者会議 将来計画検討小委員会2021-2023年度報告書