研 究 紹 介

シンチレータのイメージング技術の開発 (Development of imaging technique for scintillation)

RCNSでは、「イメージング」を用いて液体シンチレータの発光から粒子を識別する技術の開発にも取り組んでいます。

順を追ってお話します。KamLANDでは「液体シンチレータ」という物質を用いています。液体シンチレータとは、放射線が内部を通過したときにシンチレーション光と呼ばれる微弱な光を発する物質です。ここまで紹介されてきたニュートリノの反応や0νββ崩壊は、このシンチレーション光を捉えることで観測しています。これらの反応が液体シンチレータ中で起きたとき放射線が発されるため、私たちは直接目に見えない反応を液体シンチレータで観測できるのです。

一方、KamLANDではニュートリノや0νββ崩壊以外にもさまざまな反応が起こっています。周りの岩盤や大気・宇宙からくる素粒子の反応、液体シンチレータや建築部材中の不純物による反応など実にたくさんあります。もちろんこれらも液体シンチレータを発光させますが、実験には不要な反応になるため取り除かなくてはなりません。そのためには、
  1, 原因となる不純物を取り除く
  2, シンチレーション光を分析して発光の原因となった反応を識別する
方法があり、これらは私たちの大きな研究課題になっています。

「イメージング」を用いて液体シンチレータの発光から粒子を識別する技術はこのうち2にあたる技術です。詳しく紹介します。実は、液体シンチレータは放射線の種類によって発光の仕方が異なっています。β線とγ線を例にとってみると、β線は1点での発光になるのに対し、γ線は反応が起こった点の周りで散発的に発光します。(図1)これは、β線がすぐに反応するのに対し、γ線はコンプトン散乱という現象で液体シンチレータと反応するため、少し液体シンチレータ中を進んで反応、向きを変えてさらに進んだ後反応…ということを繰り返すからです。逆に、このような発光の違いを捉えられれば、β線とγ線をシンチレーション光から識別できる可能性があります。特に、0νββ崩壊の観測についていえば、β線のみを出す反応の0νββ崩壊とそれ以外のγ線を出す反応を識別することが重要になっているため、実現すれば実験のさらなる進歩が望めます。問題は、どのように捉えるか?ということです。現在のKamLANDではまだ捉えることができていません。しかし私たちは、発光を直接撮影する「イメージング」を行うことで解決できると考えています。発光を分解能よく検出し「像」として捉えられれば、発光の違いを検出できるはずです。

そして、実際に発光のイメージングを行うには、専用の装置を新たに作る必要があります。RCNSでは現在撮影に向けて、カメラのように光学系と撮像素子を組み合わせた検出器「イメージングディテクター」を開発しています。設計や試作、試験などをすべてRCNS内で行っており、現在プロトタイプ(図2)の試作を進めています。

なかなか課題も多く一筋縄ではいかない研究ですが、日々実現へ向けて努力を続けています。


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図1 粒子による液体シンチレータの発光の違い




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図2 イメージングディテクターのプロトタイプデザイン




❖ 執筆者
 森田 大暉(博士課程 1年)
 
❖ コンタクト
 清水 格