研 究 紹 介

極稀事象探索のための極低放射能技術開発

序論

 東北大学ニュートリノ科学研究センターが世界最高感度で探索を続けているニュートリノの出ない2重ベータ崩壊事象など、極稀にしか起こらない反応を検出するためには、検出の障害となる検出器内外の環境に含まれる放射性不純物による背景事象を徹底的に減らす必要があります。  私たちは今より更に低放射能な検出器部材の開発や選定のために、極低放射能材料中の放射性不純物量を評価するための技術開発を行っています。



極低放射能高純度ゲルマニウム検出器の開発と運用

 対象となる試料に含まれる放射性不純物量を評価する方法の一つに、放射性不純物から放出されるガンマ線を高純度ゲルマニウム検出器で検出し、その検出頻度から評価する方法があります。極低放射能材料中の放射性不純物量を調べるためには高純度ゲルマニウム検出器自体も極低放射能にする必要があります。私たちはそのような極低放射能高純度ゲルマニウム検出器を、環境からのガンマ線を遮蔽する銅や鉛のシールドも低放射能化し、宇宙線による背景事象を10万分の1に低減出来る神岡地下実験室内で構築しました。このように極低放射能化にこだわった結果、世界で放射性不純物量評価に用いられている高純度ゲルマニウム検出器と比べて遜色ない、測定感度の妨げとなる背景事象頻度がトップレベルに低い検出器ができ、論文として発表しました(https://doi.org/10.1093/ptep/ptad136)。 このゲルマニウム検出器では放射性不純物であるラジウム226を試料1グラムあたり10-17gの含有量まで調べることができ、カムランド2禅実験や今後神岡地下に設置予定の希釈冷凍機のほか様々な地下実験の検出器部材候補中の放射性不純物測定によるスクリーニングを行っています。

真ん中に見えるのがゲルマニウム検出器。測定試料を載せるためのアクリルだいがあり、周りから来る環境放射線を遮るための銅や鉛で出来たシールドで囲われています。

カムランド2禅実験で用いる予定の材料を測定している様子。

有機物中の放射性不純物量の高感度測定技術の開発

 ゲルマニウム検出器では感度が不十分な放射性不純物の測定手法の一つにICP-MS (誘導結合プラズマ質量分析法)があります。ICP-MSでは液体試料中に含まれるウラン238やトリウム232などを溶液1グラムあたり10-12gよりも少ない含有量でも調べることが出来ます(ゲルマニウム検出器でこれらを評価しようとすると10-10gのレベル)。 カムランド2禅実験で用いる液体シンチレータやそれを満たすバルーンフィルムは有機物で構成されており、それらに含まれるウラン・トリウム量をICP-MSで評価するには有機物成分を除去した液体試料を作る必要があります。
 私たちは筑波大学放射線・アイソトープ地球システム研究センターと協力してカムランド2禅実験で用いる予定の有機物材料中に含まれるウラン・トリウム量を高感度で測定出来る手法の確立に取り組んでいます。

東北大学RCNSにあるクラス5 (ISO 14644-1)のクリーンルーム。 ここでICP-MS測定のための試料の準備を行っています。



   筑波大学に設置したマイクロ波灰化装置 :

カムランド2禅実験で用いる予定の有機物材料から有機物成分を除去することが出来ます。灰化処理後に残った残留物を溶液化することで測定したい放射性不純物量をICP-MSで測定することが出来ます。

❖ コンタクト
 市村 晃一 (ichimura_at_awa.tohoku.ac.jp)