博士・修士 論文発表会 2022
博士課程3年: 亀井 雄斗 (KamLAND)
- Feb. 22, 2022
- 研究成果
博士課程3年: 亀井 雄斗 (KamLAND) 発表:2022年1月27日
『Hunting Massive Majoron Emission in Neutrinoless Double-Beta Decay of 136Xe with KamLAND-Zen』
(KamLAND-Zenによる136Xeのニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊における
有質量マヨロン放出過程の探索)
論文概要
素粒子の一つであるニュートリノは、標準理論の枠組みの中で唯一マヨラナ性を
持つ可能性があります。
マヨラナ性とは粒子と反粒子の区別がない性質のことで、他の粒子に比べて小さ
なニュートリノ質量を自然に説明する理論や物質優勢宇宙を作るメカニズムを説
明する理論などを成り立たせるために、ニュートリノがマヨラナ性を持つことが
期待されています。
実験的な検証はニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊という未発見の現象を観
測することで行え、この手段が現状実現可能な唯一の検証方法です。
また、ニュートリノがマヨラナ性を持つとレプトン数の保存が破れますが、これ
が広域的な自発的対称性の破れによるものであれば南部ゴールドストン粒子とし
てマヨロンという新粒子が現れます。
マヨロンは通常質量を持たないですが、擬南部ゴールドストン粒子として質量を
持つ場合も議論されています。質量を持つ場合、物理学の大きな謎の一つである
暗黒物質の正体になることが期待されています。
ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊はマヨロンの放出を伴う崩壊過程も可能
であり、その観測はマヨロンの存在を示す方法の1つです。
本博士論文は世界で初めてキセノン136が起こすニュートリノを伴わない二重ベ
ータ崩壊の有質量マヨロン放出過程を探索し、結果を報告しました。
マヨロンの質量の大きさによっては超新星爆発の観測によるニュートリノ とマ
ヨロンの結合への制限を超え、厳しい制限を得ることができました。
また、無質量マヨロン放出過程についても従来の結果を更新し、その半減期に対
して世界で最も厳しい下限値を示しています。
観測はニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊探索実験であるKamLAND-Zen 800
実験によるものです。
KamLAND-Zen 800では、二重ベータ崩壊核としてキセノン136を745kg用いて低
放射能大型液体シンチレータ検出器であるKamLANDにより2019年1月から観測が行
われています。
一𥝱年オーダー以上とされる非常に長いマヨロン放出過程の半減期を測定するた
めには低背景事象での観測が重要となります。
観測準備の段階では、キセノン136を溶かした液体シンチレータの容器であるナ
イロン製バルーンをいかにきれいに作成し、KamLAND検出器に導入するかが課題
でした。
また、観測中では解析によって背景事象を除く努力がされています。筆者は背景
事象の1つである宇宙線ミューオンによって生成される不安定核種の崩壊の理解
にも取り組みました。
他にも20年以上の運用を続けるKamLAND検出器は、経年によりコンディションが
変わっていきます。そこで観測への影響を小さくするための努力がハードウェア、
解析の両面から行われています。
このような物理探索に向けた数々の努力の結果、低放射能環境での2年近くの観
測が安定して行え、データ解析をすることで本論文をまとめることができました。

