研究成果

博士・修士 論文発表会 2022
修士課程2年: 酒井 汰一 (KamLAND)

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修士課程2年: 酒井 汰一 (KamLAND)   発表:2022年1月31日

『海洋底反ニュートリノ観測装置OBDに向けた低温高圧環境よう検出機要素の開発 とシミュレーションによる性能評価』

論文概要

U や Th といった地球内放射性起源の反電子ニュートリノ(地球ニュートリノ)の 観測は 2005 年のKamLANDによる世界初観測以降、観測精度の向上により地球科 学的知見が得られるレベルに達している。しかし、KamLAND等の大陸上の検出器 では観測されるニュートリノの約 70% が地殻由来の反ニュートリノであり、よ り深く謎の多 いマントルの情報を得ることは難しい。海洋底反ニュートリノ検 出器(Ocean Bottom Detector)は、地殻がより薄くU,Th の密度の小さい海洋で観 測することによりマントル由来の地球ニュートリノの直接観測を目指すアイデア であり、地球深部の内部構造の解明に不可欠な観測値を与えることが期待される。 また、この検出器は大陸上の検出器の主要なバックグラウンド源である原子炉か ら離れることができ、移動式のため多地点で観測できるといった独自の特徴があ る。海底に検出器を沈めるアイデアは 2005 年にハワイ大学を中心にHanohanoと いう検出器として発案されたが、検出器の実現には至らなかった。しかし 2019 年より東北大と海洋研究開発機構の共同研究がスタートし、それぞれに蓄積され た技術的、学術的知見を統合し、大型研究の実現に向けて動き出した。

本研究で はOBD検出器要素である液体シンチレーターとPMTシールドの開発、並びにシミュ レーションを元にした、マントル地球ニュートリノの観測感度の予測を行なった。 液体シンチレーターの開発では発光物質 PPO の最適な濃度を発光量測定から決 定した。それと同時に低温と常温での液体シンチレーターの発光量、透過率を測 定し、OBD の測定環境でも液体シンチレーターが十分機能することを示した。 PMT シールドの開発では、強固かつ低放射能なシールドの開発を目指した。ガラ スとアクリルを素材の候補とし、すでに耐圧性に信頼のあるが放射性物質量の多 いガラスに対しては低放射能化を、放射性物質量は少ないが、 耐圧性に不安の あるアクリルに対しては耐久テストを行なった。結果ガラスは十分に低放射能な 素材を作成することができた。一方アクリルは耐圧性をクリアできず、シールド としては使用できないことがわかった。

シミュレーションでは検出器由来の放射性物質によるアクシデンタル、α-n バッ クグラウンドと、宇宙線ミューオン由来であるHe-Li、高速中性子バックグラウ ンドを求めた。検出器由来の放射性物質によるバックグラウンドの見積もりは、 他実験から放射性物質量を引用して行なった。宇宙線ミューオン由来のバックグ ラウンドの見積もりは、OBD 観測環境におけるミューオンの特性をシミュレーシ ョンで求めたのち、それぞれのバックグラウンドを求めた。


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