研究成果

博士・修士 論文発表会 2022
修士課程2年: 鈴木 裕也(KamLAND)

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修士課程2年: 鈴木 裕也(KamLAND)   発表:2022年1月31日

『KamLAND における新しいトラック事象再構成ツールの開発とそれを用いたLIPs 探索』

論文概要

 通常の荷電レプトンやハドロンと比べて電磁相互作用が抑制される粒子 LIP( Lightly Ionizing Particle)の存在が様々な理論で予測されている。LIP の候 補の一例として,束縛されていない自由なクォークや非整数電荷を持つクォーク の束縛状態などが標準模型の拡張された枠組みで挙げられている。宇宙線と大気 の相互作用によって,相対論的速度の LIPs が生じ,それがカムランドのような 大型検出器を通過する場合,宇宙線ミューオンのように,直線的な飛跡となるが, その発光量は,LIPs の電荷の二乗に比例した,小さいものとなる。

 KamLAND でのニュートリノ観測のバックグラウンドの一つに宇宙線由来のミュ ーオン事象がある。ミューオンは高エネルギーかつほぼ光速で検出器に入射し, 最小電離でエネルギーを落として検出器をつきぬける。その際に発するチェレン コフ光やシンチレーション光がKamLAND 内部に配置された約 2000 本の光電子増 倍管(PMT)によって観測され,各事象のトラックに特有な時間情報と光量の情 報がそれぞれの PMTについて記録されている。この時間,光量情報を用いてミュ ーオンの事象再構成を行うツール(ミューオンフィッターと呼ばれている)が KamLAND でのミューオン事象を選定している。

 ミューオンの事象再構成に関して,KamLAND の既存のミューオンフィッターで は光量がトラック長から期待されるものに比べて小さいイベントはトラックの再 構成に失敗したものとして扱われる。また,LIP はミューオンよりも小さい光量 が観測されるため光量の大きいシンチレーション光の情報をより優先的に取り入 れられるようにしなければならない。
 本研究では,KamLAND において,Track-like なLIPs 事象の探索を行うため, 小光量の事象に対しても飛跡の事象再構成を行うべく,尤度関数を用いたフィッ ターを開発し,シミュレーションを用いてその性能評価を行った。ミューオンま たは LIP の入り口,出口の候補位置を検出器の PMT の位置をもとに検出器をメ ッシュ分けしていくような形でとり,事象再構成を行った。また,モンテカルロ シミュレーションをもとに確率密度関数を決定し,各 PMT がヒットする確率, しない確率を求め, ヒットした PMT については期待される観測時間がもっとも らしいかの確率を尤度関数に取り入れた。
 新しい事象再構成ツールをシミュレーションのミューオンデータに適用した結 果, ミスフィットの割合は検出器中心からトラックまでの距離(Impact parameter)400cm 以内で 2% となった。 また,電荷が 1/3, 1/10 の粒子(ミューオンの電荷を小さくしたもの)を用意し, 同様にシミュレーションを行い,フィッターの性能評価を行った。

 フィッターをKamLAND のミューオン実データに適用した結果はシミュレーショ ンと比較して良く一致していることが確認された。そのため新しいフィッターは 実データのトラック事象に対して有効であると判断し,電荷が 1/3 の LIPs を KamLAND1日分のデータから 1,000 イベント選定してフィッターを適用し,探索 を行った。 MC シミュレーションの結果から検出効率を 1/2 に設定することで,電荷 1/3 の LIPs バックグラウンドを 95.3% 排除することに成功した。さらに,残った LIPs の candidates についてはイベントディスプレイを目で見て確認し,検出 器をつきぬける track-like な LIPs 事象ではないと確認できたため本研究の探 索では LIPs 事象の発見には至らなかった。

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