研究成果

博士・修士 論文発表会 2023
博士課程3年: 安部 清尚 (KamLAND)

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博士課程3年: 安部 清尚 (KamLAND)   発表:2022年1月26日

『First measurement of the strangeness axial coupling constant using neutral current quasi-elastic interactions of atmospheric neutrinos at KamLAND』
(KamLANDにおける大気ニュートリノの中性カレント準弾性反応を用いたストレンジネス軸性電荷の初めての測定)

論文概要

本論文は、KamLANDにおける大気ニュートリノのデータを用いて、ストレンジネス軸性電荷を測定したことを報告するものです。このパラメータは中性カレント準弾性反応の軸性形式因子(核子の構造を表現するもの)に表れるもので、海クォークとして存在するストレンジクォークの核子スピンに対する寄与を表しています(図参照)。この値を決定することで、核子中のストレンジクォークは偏極しているのか(核子のスピンに対して平行なのか反平行なのか)という核子の基本構造に関する疑問に答えることができます。

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ストレンジネス軸性電荷は、陽子と中性子標的の反応断面積の違いを生み出すような効果を持ちます。したがってこのパラメータを測定するには、両標的の反応断面積を測定して、その違いを見ることが有効です。しかしながら、実際には原子核内での再散乱により、標的以外の核子がしばしば放出されてしまうため、厳密に標的核子を区別することはできません。

そこで本研究では、中性子多重度の分布を測定し、それから標的核子の寄与を統計的に分離する手法を編み出しました。これを実現するために、KamLANDにおける大気ニュートリノ事象とそれに付随する中性子多重度を測定しました。KamLANDは低いエネルギー閾値で核子反跳を検出できるため、中性カレント準弾性反応の測定に適しています。加えて、高い検出効率で中性子多重度の測定も可能です。この測定手法は、軸性形状因子のなかで未決定であるパラメータ、軸性質量への依存性を抑制することができる利点を持ちます。

本研究で得られたストレンジネス軸性電荷の測定結果は、未決定である軸性質量に対する制限のなく得られた結果として最も高精度なものです。加えて、世界で初めて、中性子多重度を用いてストレンジネス軸性電荷の測定に成功した例となっています。中性子多重度の正確な予想と測定に関する研究開発、そして予測結果とKamLAND測定データとの間にみられた良い一致は、ニュートリノ反応に伴う中性子多重度の測定を目指している様々な次世代ニュートリノ実験に大きな知見を与えるものであると期待されます。



✿ 感想

予備審査では冷や汗をかいたのですが、本審査では研究内容をしっかりとお伝えできた感触があり、安心しました。
発表や論文に関して、様々な先生方からアドバイスをいただきました。その結果として、本審査では研究内容とその魅力を拙いながらもご説明できたのだろうと思っております。ご指導、ご鞭撻ありがとうございました。



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