研究成果

博士・修士 論文発表会 2023
修士課程2年: 永塚 穂里 (KamLAND)

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修士課程2年: 永塚 穂里 (KamLAND)   発表:2022年1月31日

『KamLANDにおける超新星ニュートリノの探索』

論文概要

1987 年2 月23 日に大マゼラン星雲で発生した超新星爆発SN1987A からのニュ ートリノがKamiokande、IMB、Baksan 検出機で観測され、これが超新星ニュート リノの世界初の観測となった。ニュートリノは電荷を持たないレプトンであり、 さらに相互作用断面積が非常に小さいことから高い透過性があるため、超新星内 部の情報を外部に持ち出す。この性質から、ニュートリノによるSN1987A の観測 によってニュートリノ放出の持続時間やニュートリノが持ち出すエネルギーが理 論と合致することが確認され、超新星爆発についての理解が大きく進んだ。しか し超新星内部の構造や爆発を引き起こすための詳細なメカニズムについては更な る理解が必要である。SN1987A 以来の超新星ニュートリノの観測は重要であり、 世界中のニュートリノ検出器で探索が行われている。

本研究では大型液体シンチレータ検出器KamLAND でのおよそ18 年に渡る観測デ ータを解析することで、超新星ニュートリノ事象の探索を行った。ニュートリノ 観測には逆ベータ崩壊反応と12C の中性カレント反応を用いた。超新星爆発が起 これば、ニュートリノが10 秒程度の持続時間で放出されると考えられている。 そのためKamLAND での超新星ニュートリノ事象選定条件として2 イベント間の時 間差が10 秒以内という条件を課した。そして、逆ベータ崩壊を用いた探索結果 から銀河系内の超新星爆発の頻度に対し90% 信頼度の上限値として0.15 yr−1 と いう結果を得た。また、理論計算により逆ベータ崩壊反応と中性カレント反応の 両方を用いた場合の超新星ニュートリノに対するKamLAND の観測可能距離を算出 し、重力崩壊型超新星爆発については41−59 kpc、爆発に失敗しブラックホール になる場合には64−79 kpc であることがわかった。これより、現行の液体シンチ レータ検出器ではKamLAND が最も遠くからの超新星ニュートリノを観測可能であ ることを明らかにした。さらに、この結果からニュートリノ観測の観点からは初 めて銀河系内での星形成率にも制限を与え、90% 信頼度の上限値として17.5−22. 7M⊙yr−1を得た。加えて、本研究によって確立されたKamLAND における中性カレ ント反応の解析手法を突発天体事象との相関解析に適用することで、反電子ニュ ートリノと全フレーバーで平均したニュートリノのfluence に上限値も与えた。 以上より、これらの研究結果はKamLAND における超新星ニュートリノ事象の解析 手法を確立し距離感度を評価することに成功したうえ、先行研究にはなかった手 法でパラメータへの制限を与えることでニュートリノ天文学の新たな議論の先駆 けとなる。


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