研究成果

修士 論文発表会 2024
修士課程2年: 中根 淳(KamLAND)

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修士課程2年: 中根 淳 (KamLAND)   発表:2024年1月31日

論文タイトル:『KamLAND2プロトタイプ検出器における較正手法の開発と性能評価』

論文概要
  ニュートリノには粒子と反粒子が同一であるというマヨラナ性がある可能性が 示唆されている。これを検証できる現実的な唯一の手段がニュートリノを伴わな い二重ベータ崩壊0νββの探索である。0νββ事象はレプトン数が保存せず標準理論 を超えた物理現象であるため、その発見自体に新たな理論の必要性を示すという 意義がある。また、その他の0νββの探索の意義として、0νββの半減期からニュー トリノのマヨラナ有効質量や質量階層構造の決定に近づくこともできるほか、0ν ββの発見によりニュートリノのマヨラナ性が証明されると、シーソー機構により ニュートリノ質量が極端に小さいことを自然に説明できる。さらに、ニュートリ ノのマヨラナ性の証明は物理界の謎の一つである宇宙物質優勢を解決する鍵とな ると考えられている。
  KamLAND-Zen実験は、極低バックグラウンド環境で低エネルギーへの感度を持 つKamLAND検出器に二重ベータ崩壊核として136Xeを大量に導入することで世界最 高峰の感度で0νββの探索を行っている。しかし。いまだ0νββを観測することはで きていない。そこで実験感度向上を目指したKamLAND2-Zen実験が計画されており、 主な改良として136Xeの増量(1000kg)、高量子効率PMTの導入(観測光量1.9倍)、 PMTに集光ミラーを装着(集光量1.8倍)、新型液体シンチレータ(LAB-LS)の導入 (発光量1.4倍)による観測光量の増加が計画されている。  前述した改良案はそれぞれ独立して開発が進められているのみで、それらを組 み合わせた際の性能評価についてはまだ行われていない。そこで、KamLAND検出 器の高性能化を事前に実測で確認することを目的としてKamLAND2プロトタイプ検 出器を建設した。本研究では、プロトタイプ検出器の較正手法の開発及び、その 手法を用いた較正を行った。そして、その較正結果を適用したプロトタイプ検出 器の集光性能の評価を行った。
  プロトタイプ検出器の性能評価をするにあたって、まずプロトタイプ検出器の 較正を行う必要がある。そこで、プロトタイプ検出器のシミュレーションによる 計算と実際に検出器を使った測定の2つのデータを用い、それぞれを比較するこ とでプロトタイプ検出器の較正を行うという較正手法を開発した。較正対象はそ の後の性能評価の精度を高めるために必要な要素として、プロトタイプ検出器に 導入されたタイベックシートの反射率と14本のPMTのゲインの不定性及び時間変 化とした。較正の結果、タイベックシートの反射率は90±3%(@400nm)であると判 明した。また、ゲインの不定性は±4.8%であることがわかり、時間変化は放射線 測定の解析における光電子数の計算に適用した。
  続いて、集光ミラーのみの集光性能と各装置の性能が合わさったプロトタイプ 検出器全体の集光性能及びその性能の長期安定性を評価した。その結果、集光ミ ラーの集光性能としてHQE-PMTの観測光量が1.7∼2.6倍となることを明らかにした。 また、プロトタイプ検出器の集光性能がシミュレーションと約40%以内で一致し、 1年にわたって非常に安定していることを実証した。これらの結果から、 KamLAND2-Zen実験にプロトタイプ検出器と同様の装置を導入することによる集光 性能の向上とその性能の安定性を示すことができた。