研究成果

修士 論文発表会 2024
修士課程2年: 渡部 一歩 (KamLAND)

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修士課程2年: 渡部 一歩 (KamLAND)   発表:2024年2月1日

論文タイトル:『KamLAND2-Zen実験で使用するキセノン含有液体シンチレータの特性研究および組 成決定』

論文概要
宇宙物質優勢の謎やニュートリノの軽い質量の起源に迫るために、ニュートリノ のマヨラナ性の検証が素粒子・原子核物理学において重要課題の一つになってい る。その検証の現状唯一の実験手段として、ニュートリノを伴わない二重ベータ (0νββ)崩壊探索実験が挙げられる。KamLAND-Zen 実験では LS 中に 136Xe を 溶かし込み、その崩壊を利用して 0νββ 崩壊探索を行なっている。現在は KamLAND-Zen800 実験を進行させ、世界最高感度で探索を行なっているが、未だ 0νββ 崩壊は発見されていない。そこで、更なる背景事象の低減とエネルギー分 解能の向上を目標とする、KamLAND2-Zen 実験が計画されている。KamLAND2-Zen 実験では、検出器の様々な改良がなされる予定だが、そこではバックグラウンド 低減のための発光性 PEN フィルム導入、検出光量増加のための集光ミラー、高 量子効率 PMT, 大発光量液体シンチレータ (LS) の導入、Xeの増加などが挙げら れる。

新液体シンチレータについては現在 LAB をベースとして LS が候補として上が っているが、インナーバルーンに導入する Xe 含有状態での発光量、透過率、発 光時定数などが測定されていない。本研究では LAB をベースとした LS の Xe 含有状態での発光量を初めて測定した。また、Xe含有状態での透過率、発光時定 数は LS の種類に関わらず初めて測定を行った。特に透過率測定では、新たな装 置を使用することで系統誤差を、最大 10 分の 1 程度まで削減することに成功 した。本研究では、これら新たに測定した光学特性データを用いて、Xe を導入 することによる発光量減少などの変化への対処や影響の考察を行った。現段階で は Xe による発光量減少は第一発光溶質である PPO の増加 (4.0 -4.5 g/L 程度) が有効であり、KamLAND-LS の最大 1.33 倍まで発光量が増加すること結論づけ た。また、測定したデータや前述の改良点をもとにシミュレーションを行うこと でインナーバルーン内のみに波長変換剤である Bis-MSB を導入することで 0νββ 崩壊探索に必要なインナーバルーン内での発光の検出光量を最大化できることが わかった。現段階では、N10 を使用した LS で従来の 4.82 倍、LAB を使用した LS では従来の 5.24 倍程度まで検出光量が増加すると結論づけた。