博士 論文発表会 2025
修士課程2年: 千葉 健太郎 (KamLAND)
- Mar. 03, 2025
- 研究成果
修士課程2年: 千葉 健太郎 (KamLAND) 発表:2025年2月4日
論文タイトル:『KamLAND2-Zenのための波長変換剤に対するゾーンメルティング等の純化方法の研究とICP質量分析器による極微量放射性元素の高感度測定』
論文概要宇宙物質優勢の謎やニュートリノの軽い質量の起源に迫るために、ニュートリノのマヨラナ性の検証が素粒子物理学において重要な課題の一つになっている。現状、ニュートリノのマヨラナ性の唯一の実験的探索手法としてニュートリノを伴わない二重ベータ(0νββ)崩壊探索が挙げられ、KamLAND-Zen実験では液体シンチレータ中に136Xeを溶かし込み、その崩壊事象を利用することで0νββ崩壊探索を行っている。現状としてKamLAND-Zen 800実験が世界最高感度で探索が行われてきたが、0νββ崩壊は発見されなかった。そこで更なる背景事象の低減と高感度化を目指したKamLAND2-Zen実験が計画されている。この改善点の一つとして、発光性フィルムであるPENフィルム製ミニバルーンの導入が考えられている。導入にあたって、ミニバルーン内部のXe含有液体シンチレータの発光が外側のPMTへ到達するためには波長変換剤であるBis-MSBも導入する必要がある。しかし、先行研究の結果からBis-MSBに含まれる放射線不純物である238U、232Thの放射性不純物量の測定結果にばらつきがあった。またその絶対値を決定するために用いる回収率も60%程度であり、測定プロセスの途中で238U、232Thが散逸した可能性があった。加えて、Bis-MSB中の放射性不純物量はばらつきのある測定結果の中でも要求値(238U:10 ppt、232Th:30 ppt)と比べて有意に高いことがわかっていたものの、その純化手法については未だ有効なものが見つかっていなかった。
そこで本研究では、まず広い濃度、試料重量範囲に適応できる回収率の測定を行った後、Bis-MSBの形状の異なる(粉末状、鱗片状)ロットごとの放射性不純物濃度の絶対値を測定し、どちらも目標値に達していないことがわかった。 また純化手法としてBis-MSBに対して試料の一部を加熱・溶解し、固液相転移の際に不純物が液相側に濃縮される偏析現象を利用した純化手法であるゾーンメルティングを行うことで、最終的に純化前の試料と比べて最も純化できたところで238Uは約150分の1、232Thは約72分の1に低減することに成功し、試料全体の放射性不純物の分布も調べることに成功した。目標値に対して、最も純化された部分で238Uは94.1 pptともう1桁の純化が必要であった。一方、232Thは最も純化された部分で16.6 pptと目標値30 ppt以下に順化することに成功した。
また、この純化手順によって Bis-MSB の発光特性が変化していないかの測定を行った。純化前後の発光特性の変化について、まず発光量については一度目と二度目の純化で若干の差はあったが誤差の範囲内で一致していた。蛍光スペクトルの測定はスペクトルの形に大きな変化はなかったので発光の特性は損なわれていないと言える。透過率は二度目の純化で9 cmの透過率の測定結果に対して5~10%の減少が見られた。これは実際の検出器のサイズにすると大きな検出光量の損失になるため、純化の回数は可能な限り少なくする必要があることが示唆された。

