博士 論文発表会 2025
修士課程2年: 江田 智弘 (KamLAND)
- Mar. 03, 2025
- 研究成果
修士課程2年: 江田 智弘 (KamLAND) 発表:2025年2月3日
論文タイトル:『大型液体シンチレーター検出器における新しい粒子飛跡再構成手法の開発と性能評価』
論文概要ニュートリノはCP対称性を破る(CPV)のかという問いは宇宙創成の謎を知る上で 重要な鍵を握っており、検証には非常に精密なニュートリノ振動の測定が要求さ れる。その高精度探索において問題となっているのが、ニュートリノと原子核の 反応(νN反応)の不定性である。特に、主要な寄与として短距離相関をもつ核子ペ アによる反応(2p2h反応)が高い注目を集めている。
CPVの検証にはニュートリノのフレーバー情報を持ち、単一核子との2体反応である荷電 カレント準弾性散乱(CCQE)が用いられる。一方、2p2h反応は複数核子が関係する ためCCQEを仮定すると事象再構成にバイアスを与える。2p2h反応は放出核子の数 (多重度)が多くなる傾向があるが、チェレンコフ検出器では検出困難なため、 これまでニュートリノ反応での直接測定は行われていない。そこで、本研究はKamLAND( KL)検出器で大気ニュートリノやT2KニュートリノによるCCQE反応に伴う中性子多 重度を測定することでこの反応の直接測定を目指す。
しかし、KLにおいては飛跡をもつ事象に対する再構成手法が確立されていない。 荷電粒子の始点はνN反応の反応点を表すため飛跡再構成によって測定精度の改善 が期待できる。さらに、荷電粒子の運動方向などの情報を加えることで中性子の 生成過程など新しい観点からの議論が可能になる。
本研究では、これまで確立されていなかった大型LS検出器の飛跡再構成手法の開 発を行った。MCの性能評価から従来の再構成手法に比べて始点と方向再構成精度 が大きく改善できることを確認し、T2Kニュートリノに対して適用した結果から は本手法が実データでも機能することを示唆する結果を得た。再構成手法の確立 にはフィット精度を向上させることが必要であり、トラックフィッターの計算モ デルの不定性の削減やミューオン以外の荷電粒子に対するモデル作成などが求め られる。この手法の確立はνN反応研究だけでなく、陽子崩壊探索や暗黒物質探索 など幅広い研究に大きな波及効果が期待できる。

