研究成果

博士 論文発表会 2025
修士課程2年: 舩橋 靖直 (KamLAND)

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Funahashi front
修士課程2年: 舩橋 靖直 (KamLAND)   発表:2025年2月4日

論文タイトル:『KamLAND-Zen実験のXe核破砕背景事象の除去手法に対するポジトロニウム形成の影響の研究』

論文概要
「ニュートリノがマヨラナ性という性質を持っている場合、ニュートリノの極端 に小さな質量や物質優勢宇宙を説明することができる。マヨラナ性を探索する実 験の1つに、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊(0ν2β) 崩壊の観測がある。 光検出器(PMT)と液体シンチレータを用いた観測を行う実験施設KamLAND でも、0 ν2β崩壊の観測を目指す実験、KamLAND-Zen 実験が行われた。KamLAND-Zen 実験 では、液体シンチレータが入っているアウターバルーン内に、さらに136Xe を溶 解させた異なる組成の液体シンチレータが入ったインナーバルーンを挿入し0ν2β 崩壊の探索を行っていた。現状では0ν2β崩壊を観測するには至っていない。現在 感度向上を目指す改修計画、KamLAND2-Zen 実験が進行中である。

0ν2β 崩壊の探索における主要な背景事象のひとつに、長寿命核破砕生成物があ る。長寿命核破砕生成物は長い半減期から除去することが難しく。大きな課題と なっている。
長寿命核破砕生成物由来の事象を排除するために、PMTに対するヒット時間分布 を用いた解析手法、PIDがある。

長寿命核破砕生成物のうち、80% 程度の核種は、β+ 崩壊によって陽電子を放出 して崩壊する。この陽電子の一部は、液体シンチレータ中で、ポジトロニウムと 呼ばれる電子との束縛状態を形成する。ポジトロニウムには寿命が短いp-Ps と 寿命が長いo-Ps が存在する。o-Ps の形成割合及び寿命は、周囲の物質によって 変化する。長寿命核破砕生成物によってo-Ps が生成されるとPIDに対して有利に 働く可能性がある。このため、PID の性能評価のためには、o-Ps の寿命と形成 割合を測定する必要がある。現在のPIDのシミュレーションで使っているポジト ロニウムのパラメータは、アウターバルーン内の事象で測定されたものであり、 0ν2β 崩壊の探索に用いているインナーバルーン内の液体シンチレータとは組成 やキセノンが溶解していることなどが異なっていた。

本研究では、組成をインナーバルーン内のものと同じにした液体シンチレータを 用いてo-Ps の形成割合と寿命の測定を行い、KamLAND-Zen 及びKamLAND2-Zen で のo-Ps パラメータについて推測値を得た。さらにこの値を基にして、長寿命核 破砕生成物事象のうち、o-Ps 情報を用いてPID で排除できるものの割合を推定 し、従来のパラメータを用いたものと比較した。特にKamLAND2-Zen については、 従来のパラメータと比べて10% 程度少ない値となった。」