博士 論文発表会 2025
修士課程2年: 大野 建 (KamLAND)
- Mar. 03, 2025
- 研究成果
修士課程2年: 大野 建 (KamLAND) 発表:2025年2月4日
論文タイトル:『大型海洋底ニュートリノ検出器OBDに向けたシミュレーションによる観測感度の包括的評価』
論文概要地球内部に存在する放射性元素である U や Th から放出される反電子ニュートリノ、つまり地球ニュートリノは 2005 年に KamLAND によって世界初観測された。それ以降、地球ニュー トリノの観測精度が向上し、地球科学的知見が得られるレベルに達している。しかしながら、 KamLAND などの大陸上の検出器では、観測されるニュートリノの約 70%が地殻由来の反ニュートリノであり、マントルに関する謎を解明することは依然として難しい。Ocean Bottom Detector プロジェクトは、地殻の薄い海洋でのマントル地球ニュートリノ観測を目的とし、2019年から東北大学と海洋研究開発機構の共同研究により研究開発が進められている。地球内放射性物質の崩壊による地球ニュートリノの観測により、特に不明点の多いマントルの放射性熱の決定を目指すとともに、海洋底という特徴的な環境を活かした物理観測についても検討が始まっている。
そこでシミュレーションを用いて、地球ニュートリノを観測する際に妨げとなるバックグラウンドの影響を評価し、その見積もりを行った。また、このバックグラウンド評価に基づき、地球ニュートリノの観測感度を見積もった。新たな物理観測としては、シミュレーショ ンを用いて、広域低横波速度域 LLSVP の物質効果を考慮したニュートリノ振動の評価を行っ た。バックグラウンドの見積もりでは、検出器に起因する放射性物質からのアクシデンタルバックグラウンドや、α-n バックグラウンド、および宇宙線ミューオンによる He-Li を評価した。検出器由来の放射性物質によるバックグラウンドの見積もりには、他の実験から報告された放射性物質の量を参考にした。評価の結果、アクリル容器の壁際にバックグラウンドが多かったため、Figure of Merit の式を用いてイベントカット条件を壁際 75 cm と決定した。 また、地球ニュートリノの観測感度については、1 年間の観測で地球熱量モデルの分別が可能だということを示した。LLSVP における大気ニュートリノの振動の評価については、二つの LLSVP の影響を受ける唯一の検出器である OBD 検出器の観測地の場合、物質効果の影響を受けることで、最大 2.03%の感度を持つ結果となった。また、ニュートリノ振動を観測することで、LLSVP の密度が大きいか小さいかを理解する可能性を示した。

