研究成果

博士 論文発表会 2025
修士課程2年: 齊藤 恵汰 (KamLAND)

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Saito K front
修士課程2年: 齊藤 恵汰 (KamLAND)   発表:2025年2月4日

論文タイトル:『超新星前兆ニュートリノの経時変化を用いたアラーム手法の開発』

論文概要
 8M を超える重い恒星は内部で核融合を起こしながら成長し、最終的に超新 星爆発を起こす。 この成長の最終段階では、星内部の熱対生成反応や原子核反 応によって O(1) MeVのニュートリノが放出される。このニュートリノは超新星 前兆ニュートリノとよばれ、星の進化過程や質量階層性を理解できると期待され ている。超新星前兆ニュートリノは地球から O(100) pc離れた星に対して、超新 星爆発の数日前より観測可能である。そのためこのニュートリノの検出を通じて、 超新星爆発に対しアラームを発令することができる。

 KamLAND や Super-Kamiokande などの大型ニュートリノ検出器は逆ベータ崩壊 反応を通じ て反電子型の超新星前兆ニュートリノを検出可能である。これらの 検出器では超新星前兆ニュー トリノを用いたアラームシステムが運用されてお り、超新星前兆ニュートリノの背景事象レートに対する観測事象レートの統計的 超過に基づきアラームを発令している。本研究では超新星前兆 ニュートリノの ルミノシティとエネルギーの経時変化に基づく、検出器で観測される期待事象レ ートの変動を取り入れた新たなアラーム手法を開発した。

 本研究で開発したアラーム手法の性能を確認するために、ニュートリノを伴わ ない二重ベータ崩壊探索のためのミニバルーンをインストールしていない KamLAND を想定し、アラームSignificance 評価を行った。また若狭湾と韓国の 原子力発電所が常に稼働している状況を想定して、主要な背景事象である原子炉 由来のニュートリノ事象レートを見積もった。モンテカルロ法を用いて超新星前 兆ニュートリノが到来する仮説を3σで棄却できる時刻 (アラーム時刻) を計算す ることで、本研究で開発した手法が従来のアラーム手法よりも早期に発令可能で あることを確かめた。

 次に、150 pc 離れた質量が 15 Mの星の様々な超新星前兆ニュートリノモ デルを用いてアラーム Significance を評価した。本研究で開発したアラームは 想定した超新星前兆ニュートリノの経時変化と異なった信号に対しても従来の手 法より早期に発令できることがわかった。

 最後に近い将来超新星爆発が起こる可能性のある天体としてベテルギウス (質 量: 18−21 M 、地球までの距離: 168.1+27.5-14.9 pc) に対するアラー ム時刻を計算した。その結果、本研究で開発したアラーム手法は、従来のアラー ム手法では発令できなかった質量逆階層モデルの超新星前兆ニュートリノに感度 をもつことがわかった。さらに、本研究で開発した手法はベテルギウスに対して 少なくとも 1.1 時間前にアラーム発令可能であるとい う結果が得られた。