修士論文発表会 2026
修士課程2年: 神澤 帝鳳
- Feb. 26, 2026
- 研究成果

修士課程2年: 神澤 帝鳳 発表:2026年2月3日
論文タイトル:『KamLAND2に向けた液体シンチレータの光学特性の向上に関する研究』
論文概要
「ニュートリノ振動の観測によって、ニュートリノが有限の質量を持つことが明らかとなり、ニュートリノがマヨラナ粒子である可能性が示された。このニュー
トリノのマヨラナ性の検証は、宇宙物質優勢の謎やニュートリノ質量の起源につながるため、素粒子物理学における重要課題である。マヨラナ性の検証においては、ニュートリノを伴わない二重ベータ(0νββ)崩壊の観測が唯一の実験的手法とされている。KamLAND-Zen実験では、液体シンチレータに^{136}Xeを溶解させ、その崩壊を観測することで0νββ崩壊の探索を行なっていた。KamLAND-Zen800実験では、世界最高感度での探索により0νββ崩壊の半減期に対する制限を強めることに成功したが、観測には至らなかった。そこで、さらなる背景事象の低減とエネルギー分解能の向上を目指したKamLAND2-Zen実験が計画されている。本実験では、検出器に様々な改良が施される予定であるが、バルーン内を液体シンチレータで満たし、その内側にXe含有液体シンチレータを格納したインナーバルーンを設置
するという検出器構造は、KamLAND-Zen実験と共通である。インナーバルーンの外側に充填する液体シンチレータには、KamLAND-Zen実験で使用していた液体シ
ンチレータ(KamLS)を純化して再利用する計画であるが、現在のKamLSでは放射性不純物を除去するために過去に行われた蒸留の影響により、検出光量が約24%
低下している。本研究では、不純物除去によるKamLSの構成成分であるPC(溶媒)およびN12(希釈剤)の光学特性向上について研究を行なった。
まず、KamLAND蒸留塔で蒸留されたPCおよびN12について光学特性を評価し、検出光量低下が透過率および発光量のどちらに起因するのかを調査した。市販の高純度試薬との比較から、PCおよびN12のいずれにおいても、透過率と発光量の両方が有意に低下していることを明らかにした。
次に、実験室での蒸留、液液抽出、および種々の吸着剤により不純物を除去し、PCおよびN12の光学特性が改善されるかを検証した。併せて、GC分析により光学
特性を劣化させている不純物の特定を試みた。
PCに対しては蒸留が最も有効な不純物除去方法であることが分かった。実験室レベルの蒸留により、PCの光学特性について、KamLSの発光スペクトルとPMTの量子
効率を考慮した実効透過率T_{eff,9cm}が93.8±0.3%、発光量が43.7±1.0 pCと、高純度PC(実効透過率:93.0%、発光量:45.4 pC)と同等水準まで向上するという結果が得られた。また、PCより沸点の高い不純物が光学特性を劣化させている可能性が高く、特にGCピーク面積に対する実効透過率の傾向を調べることで、高
沸点成分に対応する4つのGCピークが透過率劣化要因物質である可能性を示した。合わせて、これらのピークが、KamLAND蒸留塔でのPCの光学特性向上における指針となることを提示した。
N12に対してはシリカゲルを用いた吸着法が最も効果的であることが分かった。シリカゲル処理により、実効透過率T_{eff,9cm}を99.8±0.3%、発光量を45.5±1.0
pCまで向上させられることを示した。この値は、高純度N12(実効透過率:99.6%、発光量:45.4 pC)と同等の光学特性である。一方で、GC分析によるN12の光学特性を劣化させている不純物ピークの特定には至らなかったが、蒸留の試験結果からN12よりも低沸点および高沸点の不純物の両方が劣化させている可能性が高いことを示した。また、シリカゲルのKamLANDでの運用について、KamLAND2-Zen実験においてPCとN12の混合液を蒸留することが決定していることを考慮し、KamLAND蒸留塔のPC塔とNP塔の釜を繋ぐ配管にシリカゲルを設置することが有効であると考えられることを述べた。
そして、新たに導入した分光光度計の測定手法を確立し、長い経路長での透過率の高精度測定を行った。先行研究では十分に検証できていなかった誤差要因を考慮し、改めて測定手法の検討および測定誤差の評価を行った。その結果、従来の分光光度計での測定と比較して、測定誤差を約1/3~1/13に低減することに成功した。実験室で蒸留したPCおよびシリカゲル処理を施したN12について22.5 cm透過率を測定し、実際のKamLAND検出器スケールにおいても高純度試薬と同等、もしくはそれ以上の透過率を有することを示した。
さらに、現状のKamLSの6.5 m透過率から計算した実効透過率T_{eff,6.5m}が24.9±0.8%、発光量が36.9±1.0 pCであるのに対し、実験室で蒸留したPCとシリカゲル処理をしたN12を組み合わせることで、実効透過率T_{eff,6.5m}を38.1±1.5%、発光量を45.3±1.0 pCまで向上させられることを確認した。このことから、蒸留とシリカゲル吸着法により「検出光量の約24%低下」という課題を解決できることを示した。」