研究成果

修士論文発表会 2026
修士課程2年: 見藤 駿

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Mito front
修士課程2年: 見藤 駿   発表:2026年2月5日

論文タイトル:『KamLAND2-Zenのための波長変換剤の偏析等による純化方法の研究と光学的特性の測定』

論文概要
宇宙における物質優勢の起源やニュートリノの軽い質量の起源に迫るために、ニ ュートリノがディラック粒子ではなく、マヨラナ粒子であるかどうかを検証する ことが、素粒子物理学における重要課題の一つになっている。現在、このニュー トリノのマヨラナ性を実験的に探索する唯一の手法として、ニュートリノを伴わ ない二重ベータ崩壊の観測が挙げられる。KamLAND-Zen実験では、ミニバルーン の液体シンチレータ中に136Xeを溶解させ、その崩壊事象を利用してニュートリ ノを伴わない二重ベータ崩壊探索を行ってきた。さらなる背景事象の低減とエネ ルギー分解能の向上によって探索感度を高めることを目指したKamLAND2-Zen実験 が計画されている。KamLAND2-Zen実験では、複数の技術的改良がおこなわれる予 定であり、背景事象を低減するための発光性PENフィルム製ミニバルーンの導入 が予定されている。

PENフィルム製のミニバルーンを導入するためには、ミニバルーン内の発光がPMT に到達することが必要である。そのために波長変換剤のBis-MSBを液体シンチレ ータに添加し、発光がミニバルーンを透過させる必要がある。しかし、Bis-MSB には放射性不純物のUとThが要求値以上に含まれていることが分かっている。ま た、メーカーから購入したBis-MSBには2つの形態の異なる、粉末状と鱗片状のも のが存在することが先行研究より分かっていたが、メーカーの情報より鱗片状の Bis-MSBは純度の低い試料をメーカーが再結晶法によりBis-MSBの純度を向上させ たものでありこれ以上出荷されないことを知った。さらに、この鱗片状Bis-MSB のU,Th濃度は粉末状Bis-MSBに比べ、2桁程度小さいことが分かっている。したが って、Bis-MSBの純化が必要であり、試料の一部を加熱・溶解し、不純物が液相 側に移動する偏析現象を利用した純化方法である偏析を行った。最も純化された 部分でU濃度(6.68±0.42)×10^1ppt、Th濃度(4.42±0.52)×10^0pptであり、あと1桁 程度の純化が必要であることが分かった。また、U、Th濃度が粉末状のものより も2桁程度小さい鱗片状Bis-MSBに対しても偏析による純化を行い、最も純化され た部分でU濃度(4.68±0.10)×10^0pptで要求値を満たすことに成功し、Th濃度は(4. 73±0.13) ×10^0pptであと1桁の純化が必要であると確認された。

さらに、再結晶による純化を行った。偏析による純化は継続して行うことができ なかったため、他の純化方法の開発が必要となった。そこで、メーカーも実施し ている再結晶による純化に注力した。KamLAND実験で用いられてきた溶媒であり、 放射性不純物量が小さいことが分かっているPCを溶媒に用いてBis-MSB再結晶を 行ったところ1桁程度の純化に成功した。さらに、再結晶の回数を5回まで重ねる ことによる純化を試みることで要求値まで到達しているかを確認した。5回再結 晶試料では、U濃度(4.65±0.37)×10^1ppt、Th濃度(2.06±0.17)×10^0pptという結 果が得られ、あと半分の濃度の純化を行うことで要求値に到達できることが確認 された。

また、純化前後の試料の光学的特性を測定し、偏析による試料については発光量、 透過率、励起・蛍光スペクトルに変化はないことが確認された。1,3回再結晶を 行った試料については光学的特性に変化は見られなかった。5回目再結晶を行っ た試料は、発光量に問題はなかったものの、短波長での透過率が低く、励起スペ クトルにも変化が見られた。