研究成果

博士・修士 論文発表会 2021
修士課程2年: 中村 陸生 (KamLAND所属)

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N.Rikuo
修士課程2年: 中村 陸生 (KamLAND所属)   発表:2021年2月2日

『KamLAND2-Zenにおける発光性バルーンでの波形弁別による212Bi-212Po背景事象除去に向けた開発研究』

論文概要

素粒子物理学の分野において、ニュートリノの性質を明らかにすることは非常に重要な意味を持つ。特にニュートリノがマヨラナ性を持つ粒子であれば、その質量が極端に小さい理由や、現在の宇宙が物質優勢であることの説明を与える手がかりとなる。マヨラナ性を実験的に検証する現実的でほぼ唯一の方法はニュートリノレス二重ベータ崩壊(0ν2β)事象の観測である。KamLAND-Zen実験は136Xeを用いた0ν2β崩壊の検出を目指す、136Xeを多量に溶解させた液体シンチレータ(LS)を封入したミニバルーンをKamLAND検出器に導入した実験である。現在136Xeを約745kg用いたKamLAND-Zen 800 実験が遂行中であり、世界最高感度での0ν2β探索が行われている。しかし、未だ0ν2β崩壊事象の発見には至っておらず、更なる感度向上を目指した将来実験KamLAND2-Zenが計画されている。

KamLAND2-Zen実験では、検出器に全面的な改良を施すことでバックグラウンドを低減させ、136Xeの増量と合わせて感度向上を目指す。特に新型液体シンチレータや高量子効率の光電子増倍管、集光ミラーや発光性ミニバルーンなどの研究開発が現在行われている。先行研究により、発光性ミニバルーンの素材はポリエチレンナフタレート(PEN)が候補にあがっている。また、PENの透過率はKamLANDで使用されているLSの発光波長領域で悪いため、波長変換剤bis-MSBを添加したLSを使用することが必要であることが分かっている。

本研究では、発光性ミニバルーンの候補素材であるPENについて、実際にミニバルーンを作成するにあたって把握しなければならない水や日光、PENフィルムロールの不均一性などの要因が発光量に与える影響を評価した。また、先行研究ではなされていなかった、内部にXe溶解LSを封入するために要求されるXeガスバリア性の検証も行った。そして、発光性ミニバルーンを導入すると新たに問題となるバックグラウンドについて、LSとPENの発光波形の違いを利用した波形弁別法により解析的な除去を行う手法の開発と検証を行った。

本研究によって、PENフィルムの発光量は各要因に対してほとんど変化しないことを明らかにした。また、PENフィルムは十分なXeガスバリア性を有していることを確認した。 そして、LSとPENの発光波形は大きく異なっていることを確認し、このことを用いて新たな波形弁別法を開発した。これを適用することで、問題となる212Bi-212Poパイルアップがdt < 9 ns の範囲において、86.2%低減できることをKamLAND2を模した光学シミュレーションを通して示した。そして、これによりKamLAND2-Zenでの5年間の測定によりマヨラナ有効質量22.5 meVまでの探索が可能となり、ニュートリノ質量階層構造のうち逆階層構造を検証できる見通しを得た。